日本茶の中でも最も日本人に親しまれているお茶である煎茶。その煎茶と似た名前のお茶で深蒸し茶というお茶があります。
こちらでは、この深蒸し茶について紹介し、煎茶との違いや、緑茶との関係について説明していきます。
深蒸し煎茶とは
- 深蒸し煎茶とは
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深蒸し煎茶とは、煎茶の製造工程の中で、茶葉を蒸す時間を煎茶の2倍程度(60秒から80秒ほど)長くしたお茶のことで緑茶の中の1つです。 普通煎茶に比べ、出来上がった茶葉はやや細かめで、お湯を淹れると水色は濃い目の緑色となり、渋味や苦味が抑えられまるやかな味わいが特徴となります。
深蒸し煎茶が多く生産される地域は静岡県で、首都圏にてその消費量が高くなっている一方、関西地区にはほとんど普及していないお茶となっています。
煎茶と深蒸し煎茶の違いについて
煎茶と深蒸し煎茶の違いは蒸し時間(殺青)の長さにあります。
煎茶と深蒸し煎茶の製造方法は、摘み取った生の茶葉を①蒸気で蒸し、②揉みながら細くより上げ、③乾燥させて仕上げるという製法は同じですが、その①蒸し時間の長短により名称が異なってきます。
一般的な煎茶の場合、その蒸し時間蒸し時間は30秒から40秒となっていますが、深蒸し茶の場合は60秒から80秒ほどに設定されています。
- 蒸し時間の違い
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- 煎茶:30秒から40秒ほど
- 深蒸し煎茶:60秒から80秒ほど
煎茶について
- 煎茶とは
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煎茶とは、日本の緑茶の1つで、露天で栽培された茶樹から摘採された新芽を蒸気で蒸し、揉みながら乾燥して伸び形の茶に仕立てたお茶のことです。 黄色がかった水色、さわやかな香り、甘味、渋味、苦味の程よいバランスを楽しむことができます。深蒸し茶と区別するために、もともと作られていた煎茶を普通煎茶、浅蒸し茶などと呼ぶことがあります。
特蒸し煎茶について
深蒸し煎茶よりもさらに蒸し時間を長くした「特蒸し煎茶」というお茶もあります。
深蒸し煎茶開発の歴史的背景
深蒸し煎茶が考案されたのは、静岡の牧之原地域の茶産地です。
静岡県は、明治時代から続くお茶の一大産地と知られていますが、牧之原を中心にした地域で作られていた煎茶は、日照時間が長いため茶葉が肉厚となり、苦渋味が強いことなどから山間地で作られる茶に比べ市場での評価が低いものでした。
そこで美味しく飲めるよう深蒸し製法が昭和30年代から40年代にかけて考案されたとされています。
その改善策として、昭和30年代から40年代にかけて、関係者によって蒸し時間を長くした製茶法が創りだされました。この茶が好評を博し、深蒸し煎茶と名付けられました。
現在でも、静岡県内の各地、特に牧ノ原地域、菊川、小笠、榛原では深蒸し茶が多く生産されており、県内の全煎茶生産量の6〜7割が深蒸し煎茶の生産と言われています。
深蒸し煎茶は水出しにもおすすめ
深蒸し煎茶は、抽出がしやすいお茶になるので水出し茶としてもおすすめのお茶となっています。
深蒸し煎茶と緑茶の違い
よく混乱しがちな、「(深蒸し)煎茶」と「緑茶」との違いについて。「煎茶」と「緑茶」を同じ意味として理解されている方も多かもしれませんが、煎茶は緑茶の中の一つです。
- 緑茶とは
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お茶の茶(生葉)は、摘採された時点から酸化酵素の働きによって変化(発酵)が始まりますが、新鮮な状態で熱処理(殺青)することで酸化酵素の働きを止めることで発酵をさせずに作られたお茶のことを緑茶(不発酵茶)と呼びます。 (※殺青:摘採された茶葉に熱処理を施すことにより、酸化酵素の働きを止めること。)
この製法に基づき、日本にて作られている緑茶は以下のものがあります。
二次加工茶(緑茶)
(普通・深蒸し)煎茶、玉露、かぶせ茶との違い
(普通・深蒸し)煎茶、玉露、かぶせ茶との違いは、その栽培方法にあります。 玉露、かぶせ茶は、摘み取り前の一定期間、茶樹に当たる直射日光を制限する方法(遮光)で栽培されているのに対し、煎茶は摘み取りまで終始露天で栽培されたお茶です。
日光を遮られた茶葉は旨味成分であるアミノ酸が豊富に含まれ、特有の味や香りを醸し出します。一方露天栽培されて作られた煎茶は、程よい渋みと爽やかな香りですっきりとした飲み口となります。
深蒸し煎茶が多く作られる日本茶の産地
現在、深蒸し煎茶は、その製法が開発された静岡を中心に、三重県、鹿児島県、福岡県などで生産がされています。
静岡
静岡県は日本のお茶の40%以上の生産量を誇る日本最大のお茶産地です。 静岡茶は、日本の三大銘茶(静岡茶、宇治茶(京都)、狭山茶(埼玉))の一つとして数えられています。
静岡県内の各地、特に牧ノ原地域、菊川、小笠、榛原では深蒸し茶が多く生産されており、深蒸し煎茶の生産統計はないため、正確な生産量は確認できませんが、静岡県内での煎茶生産量の6〜7割に達していると言われています。
深蒸し掛川茶が「本場の本物」に認定
平成27年1月26日、深蒸し掛川茶が一般財団法人食品産業センターの地域食品ブランド表示基準制度に基づく「本場の本物」に静岡県内としては初めて認定されています。
認定を受けたのは、市内の各茶工場から厳選出荷された茶葉の中から品評会によって原料を選び出している「天葉(あまね)」ブランドです。 掛川市ウェブサイト
- 「天葉(あまね)」とは
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天葉は、掛川茶の未来創造のため、品質の管理・向上と掛川茶のPRを目的として組織された「掛川茶ブランド委員会」が企画・制作した最高級の深蒸し掛川茶です。その名前には『その極上の香りが天空へと広がり、その名があまねく世界に知れ渡るように…』という願いが込められています。
本場の本物とは
- 本場の本物とは
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本場の本物とは、製造者を中心とする地域の団体もしくは特認者※が定めた、こだわりの基準を、一般財団法人食品産業センターが設置した審査専門委員会がチェックした上で、はじめて商品に表示できるようになるのが、「本場の本物」マークです。 本場の本物ブランド推進機構
三重県
伊勢茶の産地で知られる三重県。お茶生産量は静岡、鹿児島に次いで全国第三位となっており、かぶせ茶や深蒸し煎茶が多く生産されています。平成28年荒茶生産量6370トン、栽培面積は3,000ha。
年間を通して年間平均気温が約14~15度という温暖でお茶栽培にとてもに適している地域であり、西北に鈴鹿山脈、大台山脈、東南は伊勢湾、熊野灘に面していることなどから、各地で特徴的なお茶がたくさん作られています。
蒸し製煎茶製法の発明
現在の煎茶へとつながる蒸し製煎茶の製法は、1738年に山城の国(現在の京都府)の湯屋谷で永谷宗円(永谷三之丞)により開発されました。
その製法は、①良質な芽を摘み、蒸して殺青。次いで②和紙を貼った焙炉の上で揉みながら乾燥させるといったものでした。
これによって、これまで日本で飲まれていた抹茶のような粉末としてではなく、急須に淹れた茶葉に湯を注ぐだけで成分を抽出できる茶が完成することとなりました。
永谷宗円はこの茶を江戸日本橋の山本屋(現在の山本山)に持ち込み高い評価を得ることになります。そして、山本屋は江戸でこの茶を販売し、商業的に成功を収めることとになりました。
このようにして煎茶が開発され、その製法が次第に全国各地に広まっていき、現在ではこの製法を発展させた煎茶が日本茶消費の大部分を占めています。
茶業関係者は永谷宗円の業績を讃え、生家に近い神社に「茶宗明神」として祀られています。
専用の急須を選ぼう
(普通)煎茶よりも、蒸し時間を長くして作られる深蒸し煎茶は、茶葉が細かいため、急須の網目から茶葉が直接湯呑みに出てしまったり、お茶が詰まりやすくなったります。
そこで、深蒸し煎茶を美味しく頂くために編み目の細かい深蒸し煎茶用の急須を用意されることをおすすめします。